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「寄り添い人」としての医療コーディネーターの役割

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医療が適切に行われるためには医師と患者の間の円滑なコミュニケーションが不可欠ですが、両者の立場の違いにより誤解やトラブルが生じることもあります。豊富に溢れる医療情報の中から自分に最適な情報を選択することは患者には難しく、困惑し立ち往生している人もいます。医療コーディネーターはそんな悩みを抱える患者の「寄り添い人」として、納得できる治療が受けられるように患者の意思決定の支援を行っています。日本医療コーディネーター協会代表理事の嵯峨崎泰子氏に、そのユニークな活動について伺いました。

嵯峨崎 泰子 氏

  • 日本医療コーディネーター協会 代表理事

医師と患者の隙間を埋める調整役として

医療コーディネーターとは、患者さんが望む医療を受けられるように調整をする仕事です。医師が診断をして説明をし、患者さんが理解して意思決定をして積極的に治療を受けるためには、医師と患者さんの間に存在する理解の差など隙間を上手に埋める調整役が必要です。本来それは、看護師もしくは他のコメディカルの役目です。しかし実際には多忙などの理由で調整役としての機能がなかなかうまく働かないことがあり、不都合が生じるケースがみられます。

医療コーディネーターは、医療全般の患者さんの相談にのり、場合によっては医師の説明を一緒に聞いたり、患者さんの不安を医師に伝えたり、疑問点を質問したりします。

私が医療コーディネーターという職種が必要だと感じたのは、30代のときに子宮頸がんになって初めて患者の立場に立ったときに、自分が弱者になる経験をしたからです。精神的混乱状態に陥り、状況を冷静に理解できませんでした。術後の傷がなかなか生着せず、大出血をして再手術をして院内感染をして……と、大変な状況が繰り返されました。そのとき私の周囲には的確なアドバイスしてくれる人はいませんでした。

治療経過がよくないのは子育て中で無理を重ねてしまった自分の責任だとは素直に思えなくて、医療者に対する不満や不信、相手を責めたくなるネガティブな気持ちが出てきました。

そのような体験を経て、看護師の資格を持つ私は、医療コーディネーターという立場で患者さんに寄り添い、的確な意思決定ができるよう支援をする仕事をしたいと考えました。
幸い賛同してくれる仲間と出会うことができ、2003年に日本医療コーディネーター協会を設立しました。

医師とのコミュニケーションで悩む

かつては治療法の選択で迷っている患者さんの相談が多かったのですが、最近多くみられるのは医師とのコミュニケーションで悩んでいる方です。治療方針について医師に聞きたいことが聞けない。自分が言いたいことを伝えると医師が激昂してしまった。主治医の気分を害さずにセカンドオピニオンをとるにはどうしたらいいか。過去に検診で脳動脈瘤を指摘されていたけども、症状がないのでそのまま放置してきて前の先生のところに行きづらくなってしまった。

このように医師との関係において、患者さんはいろいろな不安を抱えておられます。特にがん患者さんの場合、非標準治療を別の医療機関で受けてうまくいかなくて元の医師のところへ戻ってきたときに、「もう診てやらない」と言われ、どうしたらよいのかとご相談を受ける事例をしばしば経験します。医師が評価していない他の治療法を選択してしまった患者さんでも、自分のところへ再び戻ってきたときには見放さないようにしてあげるのが本来の医療の姿だと思います。このような事例において私ども医療コーディネーターが調整役をお引き受けすると、多くの場合は元の主治医に戻ることができます。

情報過多に振り回される患者さん

ご相談に来られる患者さんは、主治医の説明を適切に理解できていない方が大多数です。
インターネット上にあふれる豊富な情報の選択で困っている患者さんも多いのが実状です。
間違った方向というか、その人に合っていない治療法へ走ってしまう。のちのち自分でも間違ったと気づくことが多いのですが、自分では修正がなかなかできない。医療に「絶対」ということはありません。100人いれば100通りの治療提案ができるくらい個体差があります。そこのところを主治医が患者さんに十分に伝えていないと誤解が生じやすくなります。

患者さんがどのように自分の病気を理解されていて何に困っているのか、主治医との間にどのように見解の差があって良好なコミュニケーションが築けていないのか、そういったことを明らかにして調整するのが医療コーディネーターの役割です。患者さんがご自分で決められるようにカウンセリングをすることが第一段階です。必要があれば診療に同行します。手術の立ち合いは以前はしばしば行いましたが、最近は個人情報の関係で手続きが煩雑化したためあまり行っていません。

医療コーディネーターが関与すると、「営業妨害するのか」と言う医師も以前はいたのですが、最近はむしろ歓迎されます。医師と患者さんの関係が以前より落ち着いてきている感じはあります。横柄な態度をとる医師は減りました。むしろ最近は患者さんに丸投げてしまうタイプの医師が目立つようになりました。治療選択肢をすべて示して、「自分で決めてください」と患者さんに預けてしまう。やはり専門家として推奨する選択肢というのも示していただかないと患者さんは困惑してしまいます。

医療コーディネーターは全国各地で活動中

現在、協会に登録している医療コーディネーターは100名ほどいます。医療コーディネーターとしての教育を協会で受けた卒業生は数百名います。医療コーディネーターの育成は、「1泊2日/月×6ヵ月」のコースで行われます。専門医による疾患理解のための講義、コミュニケーション技法の訓練、事例ディスカッションなど、さまざまな研修プログラムが組まれています。当初、受講生は看護師が多かったのですが、いまは福祉職の方、医療事務の方、自身が介護経験を持つ方などさまざまな方が受講されています。

医療コーディネーターの支援を受けたい患者さんやご家族には、協会のホームページからアクセスしていただき、有料の相談を受けていただきます。医療コーディネーターは全国各地に在住していますので、できるだけ相談者のお住まいの近隣の者が対応をお引き受けします。

本来は院内で解決すべきこと

患者さんが困っておられることは、本来は院内で解決すべきことです。患者さんが院外に相談を持ち出すこと自体がやはりちょっとおかしい。主治医と患者さんとの間で話し合いをし、調整職である看護師も含めて院内のスタッフがうまく患者さんの理解と認識を補完するようにフォローしてあげれば、院外に患者さんが相談を持ち出さなくても済むと思います。

そこで私は現在、都内のクリニックの副院長の立場で、受診する患者さんの相談窓口業務も兼務しています。医師にかかる前に医療コーディネーターがお話を聞いて情報を整理しておくと、診察が大変スムーズにいきます。診察時間が短いとか、医師がパソコンばかり見て話を聞いてくれないという患者さんの不満はなくなります。医師も診察が楽になり、判断ミスが減ります。通常の診療より時間と人手がかかりますが、クリニックの経営にとってプラスとなっています。他のコーディネーターたちも、それぞれの医療機関の相談窓口を拠点として活動するようになっています。

ライフケア・プラクティショナーの育成も

日本医療コーディネーター協会では「認定ライフケア・プラクティショナー」という資格を数年前に創設して、地域の中でケアが必要な人に手を差し伸べていく役割、いわゆる民間型の民生委員の養成を目指しています。民生委員はみなさんボランティアですが、全体的に高齢化してきていますので、若い人たちに介護予防という観点からもっと関与してほしいと考えました。

ライフケア・プラクティショナーの役割には保険会社の営業マンが適任だと考え、保険会社と連携して育成に取り組んでいます。医療と健康と福祉の知識を身につけてもらい、冷静に物事をみられる第三者として機能できるよう教育します。すでに300人ほど養成しました。自分のお客だけでなく地域全体を見渡して、ちょっと困ったときに相談を引き受け、行政につなぐとか、保証のアドバイスをするとか、かかりつけ医を一緒に探してあげるなど、地域の中で多岐にわたる仕事をしています。

たとえば認知症で徘徊している方に早い段階で気づくかもしれない。街の中で辛そうにしている方にちょっと声をかけてサポートしてあげるにしても、適切に病気を理解していればサポートの仕方がおのずから違ってくるでしょう。

いま年に2回のペースで、3日間のライフケア・プラクティショナー育成集中コースを実施しています。

社会の中に「寄り添い人」を増やそう

医療コーディネーターとライフケア・プラクティショナー、この両者を私たちは「寄り添い人」と命名しています。冷静な第三者として常に控えていて、本当に困ったとき手を指しのべる人、これが寄り添い人です。

お薬や病気に対する知識が深い製薬会社のMRさんも、ぜひ寄り添い人になっていただきたいと希望します。特に気にかけていただきたいのが高齢者です。たくさんの飲み残しのお薬を抱えている方がいたら、ぜひ整理のお手伝いをしてあげてください。主治医の先生のところや薬局へ持って行って処分してもらうとか、漫然と薬をもらい続けないように援助するとか、MRさんが寄り添い人として支援してくだされば、服薬の安全性や医療費の節減や適正配分のためにも意義が大きいのではないかと思います。

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