米国ヘルスケア系企業の中で高まりつつある、タックス・インバージョン(課税逆転)を狙う欧州企業買収の動き。以前、『続く外資系製薬企業のM&A・再編と、その影に見た老舗日系企業の持つ可能性』でもご紹介した、アッヴィとシャイアーがついに経営統合の線で合意しましたね。
2014/7/18付の日本経済新聞によると、
アッヴィが総額 320億ポンド(約5兆5300億円)でシャイアーの全株式を買い取る。合算の売上高は約230億ドル(約2兆3200億円)と、世界9位の米イーライ・ リリーと並ぶ規模になる。とのこと。
シャイアーの希少疾患に強い開発力と、法人税負担額の緩和がアッヴィに追い風となるでしょう。
アッヴィもまた、ファイザーがアストラゼネカを買収する際に予定していたのと同様、統合を機に本社をイギリスに置くことが既に発表されています。イギリスは先進国の中でも法人税が安いことで知られますが、果たして各国の法人税はどの程度違うものなのでしょうか。
現在、世界の法人実効税率は「20%台が主流」(THE PAGE「法人税引き下げって効果あるの?/木暮太一のやさしいニュース解説」より)とされています。例えば…
- ドイツ…29.59%
- 中国…25.0%
- 韓国…24.2%
- イギリス…23.0%
※財務省ホームページより
一方、アメリカはというと、ずば抜けて高く、ニューヨークの場合で45.67%。
これは、30%台の連邦税に加えて州税と、さらに一部の市では市法人税が課せられる場合があるため。市・州・国と三重に課金されているわけです。
上記の4カ国ではドイツと韓国も国税の他に地方税を徴収していますが、そもそもの税率が低く、20%台に納まっています。イギリスに至っては、国税のみ。しかも2015年4月から20.00%に引き下げられることが決定しています。アッヴィやファイザーのような米国系企業が英国に本社を置けば、単純に法人税が半額近くなるわけですから、M&Aに前向きなのも頷けますね。
ところで、ここ最近法人税引き下げに意欲を見せる我が国・日本はどうでしょうか。国税23.71%と地方税11.93%(東京都の場合)、合計35.64%と、アメリカに次ぐ高額です。甘利経済再生相は、それを今後5年で6%弱引き下げ、20%台にしていく考えを示しています。
いま現在、日系企業は文化と言語の壁のためか、米国企業ほど税率の低い国にアプローチを掛けていません。ですが、もしもアベノミクスが成功した際は、逆に米国企業が国内に押し寄せてくる可能性も考えられるでしょう(もちろんその頃にはイギリスがさらに低法人率になっているわけですが)。
各国の法人税の移ろいと共に、今後の製薬業界の勢力図を占ってみるのも興味深いかもしれません。
(文・栗山 鈴奈)