前回のコラムでもご紹介したように、ここ最近、製薬メーカー各社がMSLを増やし、MRを減少させているかのような報道が目に尽きます。8月26日の日経新聞の朝刊でも、次のような記事が踊っていました。
「製薬企業の営業職にMR(医薬情報担当者)の人数が大きく減少する一方で、急速に存在感を増している新しい職種がある。欧米で台頭するメディカルサイエンスリエゾン(MSL)だ」
実際の採用現場では、どうなのか。
2015年現在、MR BiZに寄せられている製薬メーカー各社からのMR求人(中途採用)は、それほど減少しているわけではありません。業界全体で見れば、増え続けていたMR人口が横ばいとなっただけで、製薬メーカー各社には、報道されているほどの「MRを減少させよう」という目立った動きはないのです。
但し、前回のコラム「各社のMR募集抑制と、それでも期待される専門MRの力」でもご紹介した通り、企業がMR採用において、より専門性を求めるようになったという傾向は、確かにMR BiZが製薬メーカー各社の採用支援を行っていても、感じられます。
MR BiZでは、昨今のMSLの台頭は、MR数を必ずしも駆逐するようなものではなく、むしろMRの今後のあり方を変え、進化させるものであると捉えています。
そもそもMSLが注目される背景には、近年の接待禁止令など、医師と製薬会社の関係性の透明化の流れがあります。自社製品の処方促進を行わず、医薬品の適正使用の推進に主眼点を置いたMSLは、市場シェアや処方で報酬が変わるわけではないため、MRのように自社製品を強く売り込むことはしません。さらに、MRには禁止されている承認前の新薬についても、意見交換を行っています。
いわばMSLは、営業部門とは全く別に医師と接点を持つためのパイプ役。MRと役割を食い合うものではなく、むしろMSLとMRは両輪で機能し、より医師と製薬メーカーの関係性を密にするものと言えるでしょう。
MSLはここ1年で急速に増えたものの、業界全体で見たとき、MSLの人数はまだまだMRのわずか2%にしか満ちません。故に、その存在はまだまだ発達途上のものと言えるでしょう。同様に、MSL時代のMRに課せられた新たな役割も、まだ各社とも模索段階と言えます。
ともすると、MRの今後というものは、製薬メーカー側から降りてくるものではなく、MR一人ひとりの活動から自ずと定義されていくものなのかもしれません。MSLにはできない役割とは何なのか、今必要な情報提供とはどういったものなのか…。今後、将来性の高いMRを目指す上で、MSLの存在は良いヒントとなりそうです。
(文・栗山 鈴奈)