連日報道されているとおり、10月8日、人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作成に世界で初めて成功した、京都大学教授の山中 伸弥さんが、ノーベル医学・生理学賞を授与されましたね。
森口尚史さんの件ではいろいろとニュースが駆け巡っていますが、それはさておき、iPS細胞が今後実用化されれば、薬では治せなかった難病も、本人からiPS細胞を生成し、移植することで治療が可能になるなど、医療は数段飛ばしの発展を遂げると言われています。
しかし、こうしたiPS細胞の再生医療への応用には、主に2つの壁があると言われてます。1つは、YOMIURI ONLINEが10月9日に報道した、クローン・リスクです。SFのような話ですが、あらゆる種類の細胞に変化できるiPS細胞は、悪用されれば落ちている髪の毛からクローン人間を生成できてしまいます。この件に関しては、文部科学省が指針を策定する流れとなりました。
もうひとつの問題が、実はMRの皆さんにも大きく関係するかもしれない話題です。それは、移植した細胞が増殖して腫瘍になる「がん化」リスク。山中さんの研究では、iPS細胞の作製に、c-Mycと呼ばれるがんの原因遺伝子を一部に使用しているため、このようなリスクを懸念する声が多く上がっています。
山中さんは現在、c-Myc遺伝子を含む4つの遺伝子から生成する方法とは別に、c-Mycを使用しない6因子で生成する方法を練習するなど、リスク解決に向けて動き出しているそうです。山中さんは作成方法を変えるという根本的なアプローチをしていますが、その一方で、オンコロジー領域の新薬で、がん化リスクを解消する、というアプローチもあるでしょう。現在、がん化リスクについて懸念されているのは、iPS細胞に限らずES細胞も。がんリスクは、再生医療につきまとう障壁そのもの。
実用化に向けて動き出したiPS細胞自体、多様な新薬を今後生み出していくことになるでしょうが、再生医療の発展は、がん領域のマーケット需要を広げることにもなるかもしれません。
Yakugyo Jiho2013 8/10によると、現在、中外製薬では550人、ノバルティスファーマでは400人の、がん領域専門MRが配備されています。ジェネラル体制を敷く武田薬品工業でさえ、癌領域に専門のMRを50人置くなど、ただでさえ各社の間にオンコロジー専門のスペシャリストMRというあり方が浸透しています。今後、再生医療の発展が、オンコロジー専門MRの存在意義をますます高めていくことになるかもしれません。
(文・須藤 利香子)