前回、大日本住友製薬の事例を参考に、iPhone導入がMR活動にもたらす変化についてお話ししました。スマートフォン特有の、起動の速いブラウジングマシンとしての性能と、企業側が用意したアプリを活用することで、スマートフォンが導入された環境と、そうでない環境とでは、営業方法やスケジューリングなどが変わってくるでしょう。
しかも、iPhoneをはじめとするスマートフォンは、カメラやボイスメモ、電子書籍ビューアなどがついた多機能型デバイス。一人ひとりが必要に応じてアプリを選び、自分のスマートフォンをカスタマイズしていくことで、営業効率をグンと向上させられることでしょう。
スマートフォンの普及により、MRの業務がどの程度ドラスティックに変化するかは、まだまだ未知数。ですが、使い方次第で様々な用途が見いだせる性質から、各MRの医薬情報提供者としての活動と、かなり深く結びつくものとなるでしょう。ですが、スマートフォンの普及は、必ずしもMRにとって良いことばかりとは限らない気がしています。
2001年、病院に電子カルテの普及が始まりました。それから10年近く経つ今でも、残念ながら全病院へ普及するには至っていませんが、医療現場のデータベース化・情報化には大きく貢献しています。その一方で、電子カルテが看護師の転職市場にある変化をもたらたことを、ご存じでしょうか。
- 電子カルテのある病院で働いていた看護師が、電子カルテ化されていない病院への転職を敬遠するようになった。
- 電子カルテを使用したことのない年配看護師は、電子カルテ化された病院から採用されにくくなった。
スマートフォンは、まだ導入企業がそれほど多くない関係で、一種の特典や福利厚生と変わらないように見えるかもしれません。ですが、将来的にスマートフォンの普及が進んでくると、看護師にとっての電子カルテ同様に、MRの転職を左右する要素となりかねないのです。
全ての製薬メーカーにスマートフォンが導入されるには時間が掛かるでしょうから、当面はスマートフォンを導入している企業とそうでない企業とに、業界が分かれることになります。また、全メーカーが同じインターフェイスのスマートフォンを採用するとは限りません。そうなると、一度スマートフォンを駆使したMR活動に触れてしまった人は、使い慣れたインターフェイスで業務を行えるよう、転職の際はどのスマートフォンを導入しているかを気にしながら、企業選びをすることになります。
大げさかも知れませんが、スマートフォンに頼りすぎれば、スマートフォンを失う怖さがつきまとうことになるでしょう。「行きたい製薬メーカーがあるのに、スマートフォンの機種が違う(あるいは導入されてない)」と悩むことにならないよう、今のうちから、業務上でのスマートフォンとの付き合い方について、考えておく必要があるのかもしれません。
(文・須藤 利香子)