2017年8月、ノバルティスの「キムリア」が米国で承認されました。CAR-T(キメラ抗原受容体T細胞。カーティー)療法が世界で初めて承認を得た瞬間です。
CAR-T療法は、がん患者から免疫細胞の一種であるT細胞を取り出し、がんに対する攻撃性を高めるよう遺伝子操作した上で患者の体に戻すことで、正常細胞を傷付けず、がん細胞だけを排除するしくみ。抗がん剤や放射線治療と比べて低侵襲で、なおかつがん細胞に抵抗性を持たれにくいことから、『次世代のがん治療』と呼ばれています。
キムリアの臨床試験では、他の治療法が効かなかった患者群に対して80%を超える確率で効果を示したこともさることながら、1回の治療費が5000万円にも及ぶことでも注目を集めました。あれから1年。製薬業界では、CAR-Tの研究開発が活発化しています。
2017年10月には、ノバルティスと世界初承認を争っていた米カイトファーマ社(2017年8月よりギリアド傘下)の新薬が無事承認を迎えました。現在は第一三共が同社と包括提携を締結し、2019年の日本での承認を目指しています。
海外での開発が先行する状況ですが、日系企業でも多くのパイプラインが走っています。武田薬品では来年から臨床試験開始を予定。小野薬品工業も開発を進めているほか、8月21日には、タカラバイオと組んでCAR-T事業への参入を表明していた大塚製薬が、大阪大学とタッグを組んで全領域のがんを対象に基礎研究を進めることが報じられました。
「国立大学法人大阪大学(大阪府吹田市、総長:西尾 章治郎、以下「大阪大学」)と大塚製薬株式会社(東京都、代表取締役社長:樋口 達夫、以下「大塚製薬」)は、大阪大学が開発しているインテグリンβ7の活性型立体構造を標的としたMMG49 CAR-T細胞療法について、大阪大学が大塚製薬に全世界におけるMMG49 CAR-T細胞療法関連特許の独占的な実施権を許諾する契約を本日締結しました」(大塚製薬プレスリリースより)
新薬開発の主戦場はオンコロジーのCAR-Tへ。この分野のMR(医薬情報担当者)の採用が、既に活発化し始めています。来るべきCAR-T時代に向けて、今のうちからオンコロジーや免疫療法の経験を積むことが、MRとしての市場価値の向上に繋がるでしょう。
(文・須藤 利香子)