当コラムでも繰り返し取り上げている小野薬品工業の免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」。競合品の開発も進んでおり、がん免疫療法剤市場の拡大に期待が高まっていましたが、ここにきて雲行きが怪しくなってきました。
と言うのも、その薬価の高さや、適応拡大による使用患者の広がりに、政府や医療界から懸念の声が上がっているのです。
オプジーボは2014年9月に悪性黒色腫(メラノーマ)の適応で発売。昨年12月には、非小細胞肺がんにも適応が広がり、オプジーボを使える患者の数もぐんと増えました。
これに対して、4日の財務省の審議会では、オプジーボを例に高額薬剤に関する議論を開始。がんの専門医が「オプジーボを非小細胞肺がんに用いた際の薬剤費が、年間で1兆7500億円に上る可能性があるとする試算を提示」(4月5日付日刊薬業)しました。
これには日本医師会もすぐさま反応。4月7日付日刊薬業によると、
「日本医師会の中川俊男副会長は6日の会見で、効能・効果の追加などで薬価算定時に予測していた患者数が大きく拡大した際には、2年に1度の薬価改定を待たずに薬価を引き下げるべきだと提案した」
財務省や医師会によるこうした動きの背景には、高い薬剤が多くの人に使われると公的医療保険財政を圧迫してしまうという懸念があるのは言うまでもありません。今年度の薬価制度改革で導入された特例拡大再算定と考え方は同じです。
ただ、小野薬品も黙ってはいません。今月11日には、2016年度のオプジーボの予想売上高は1260億円だと発表。この時期に売上高予想を公表するのは異例ですが、小野薬品は「現状を正しく理解してもらうため、あえて公表した」(4月12日付日経新聞)。“1兆7500億円”という数字をもとに高まる批判を牽制しました。
オプジーボを引き合いに加熱する高額薬剤の議論は、これから発売されるがん免疫療法剤だけでなく、あらゆる医薬品の適応拡大に影響を与えかねません。公的保険財政の持続性は重要な課題ですが、画期的医薬品の開発に水を差すことだけはないようにしてほしいものです。
(文・前田雄樹)