自宅にいながら臨床試験に参加することを可能に――。製薬業界で今、「バーチャルトライアル」(遠隔臨床試験)に対する注目が高まっています。
バーチャルトライアルとは、モバイル技術やセンサー技術を活用することで、必要なデータを遠隔で取得する臨床試験のこと。患者(被験者)は、医療機関に通院することなく、自宅や勤務先などから臨床試験に参加することが可能になります。
従来型の臨床試験では、「臨床試験を実施している施設が遠い」「忙しくて通院する時間がない」といった場合、患者は臨床試験への参加を断念せざるを得ませんでした。実際、参加条件に該当するにもかかわらず、臨床試験に参加している患者はほんの一握り。バーチャルトライアルの最大の狙いは、患者の負担を軽減し、臨床試験のアクセスを上げることにあります。
バーチャルトライアルは、新薬開発を行う製薬企業にとっても大きなメリットがあります。臨床試験へのアクセスが向上すれば、患者を集めるための手間と費用が減り、新薬開発の時間とコストの削減につながると期待されています。CRO(医薬品開発受託機関)大手の米IQVIAは、臨床試験をバーチャルで行うことで、従来型臨床試験に比べて費用を20~25%を削減でき、試験期間も4~5カ月程度短縮できるとしています。
欧米の大手製薬会社は活用に本腰を入れ始めており、スイス・ノバルティスや仏サノフィが米国のIT会社「サイエンス37」と提携してバーチャルトライアルを開始。米メディデータやIQVIAも今年、相次いでバーチャルトライアルサービスの提供を始めました。
バーチャルトライアルは、開発費の高騰にあえぐ製薬会社を救うのか。今後の新薬開発を大きく左右しかねない動きだけに、MR(医薬情報担当者)としても注目しておきたいところです。
(文・前田 雄樹)