連休中のニュースといえば、ファイザーによるアストラゼネカの買収騒動。連休前に588億ポンドを提示して買収に失敗したファイザーによるセカンドアタックが、5月2日に実行されました。
売上高4兆0,869億円、研究開発費6,280億円、世界2位の規模を誇る米最大手のファイザーと、売上高2兆2,284億円、研究開発費4,184億円、世界7位のアストラゼネカ。買収が成功すれば1位のノバルティス売上高4兆2,244億円、研究開発費7,447億円を大きく上回る世界最大のメガファーマが誕生することになりますが、630億ポンド(1060億ドル)を提示した二度目の交渉も、あえなく決裂。アストラゼネカの取締役会は、「企業価値を過小評価している」として、即刻拒否したのでありました。
同社が1990年代から積極的な大型買収を繰り返しながら、商品力のある新薬を手に入れてきたことは周知の通り。M&Aを繰り返して企業を成長させる手法は、一部で「ファイザーモデル」とさえ言われるほど。2000年にはワーナー・ランバート社を買収、2003年にはファルマシアを買収し、世界最大の製薬メーカーになりましたが、近年はノバルティスに1位の座を明け渡していました。
そのファイザー。先日5/6の発表で、第1四半期決算が市場の予想を9%(7億3000万ドル)も下回ったことが明らかになりました。同社にとって、アストラゼネカの買収は何としてもクリアしたいもの。ところが、この買収劇。達成するには大きな障壁を越えなければならないようです。それは、イギリス政府です。
3年前、ファイザーは英国南部にある研究開発センターの大部分を閉鎖し、2000人近い失業者を出しました。当時、イギリス議会では相当な批判が出、今もなおイギリス国内ではファイザーに対するネガティブイメージがつきまとう模様。
事実、5月7日のロイターによれば、
「英国のケーブル民間企業・技術革新・技能相は6日、米医薬品大手ファイザー が英同業アストラゼネカ を1060億ドルで買収する提案を示していることについて、合併に関する国益審査権限を行使して介入する可能性を示唆した。
英議会はキャメロン政権に対して、もしファイザーがアストラゼネカを買収する場合は英国の雇用や知的財産権などを保護する約束を取り付けるように求める動きを強めている」
とのことで、ファイザーの風当たりは今後強まっていきそうです。
皮肉にも、現ファイザーCEOは、スコットランド出身のイアン・リード氏。ネット上の複数ソースによると、同氏は、買収がまとまった暁にはファイザーの課税地を英国に移すほか、本部機能の多くをイギリスに集中させる計画を示唆。さらにR&D部門の従業員の20%を英国拠点に置くと約束したそうですが、米国の税制改正によってイギリスに税制面での拠点を置くことは難しくなるのでは、との懸念も。
交渉は困難を極めそうですが、ブルームバーグの5月13日の記事によれば、
「米製薬会社ファイザー は同業の英アストラゼネカへの買収提示額を再び引き上げることを計画している。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。(中略)同関係者によれば、ファイザーは恐らく、買収に関する英政府の公聴会が終わるのを待って提示額を引き上げる」
とのこと。今後も2社の攻防は、続く見込みです。
(文・栗山 鈴奈)