近年、耳にすることが多くなったワードのひとつに「ビッグデータの活用」があります。ビッグデータとは、一般的なデータベースシステムでは処理できないほどに大量のデータを指します。その定義は数十テラバイト以上とも数ペタバイト以上とも言われています。
大規模なデータを解析することは、言うならば『最上級の俯瞰作業』。これまでの技術では分析しきれないほど肥大化した大量のデータが、一瞬にして「最大の財産になる」と言われています。
IDC Japanによると、国内のビッグデータテクノロジー/サービス市場は、「2012年の同市場の規模は206億7000万円となった。2013年は前年比41.9%増の293億3000万円に拡大すると予測している」とのこと。
最近ではSuicaのビッグデータ活用が大きな話題を呼ぶなど、各業界で注目を集めていますが、実は製薬業界でもビッグデータ活用の動きがあるのをご存じでしょうか。
米国のガン治療専門医の学会である”AmericanSocietyofClinicalOncology”。ここではがん患者のデータを集約することで膨大ながん患者ビッグデータを構築。これを解析することを通じて、今後のがん治療に活かしていく試みが。
ソニーでは、ヒトゲノムの解析にビッグデータ処理技術を応用し、製薬企業に向けてデータ提供を行われるそうです。「ヒトゲノム(全遺伝情報)の解析事業に参入する。遺伝子解析装置で世界最大手の米イルミナと合弁会社を設立、日本でサービスを開始する」(日本経済新聞 8/28より)。
一方、MRに直結する試みがなされているのは、2011年よりオンコロジー領域に本格参入したエーザイ。後発となるハンデを挽回すべく、国内製薬企業ではいち早く、ビッグデータの活用をスタートしました。
エーザイの試みは、ビッグデータとIT(スマートデバイス)をフル活用した、高度かつ専門的なディテーリングの実現。MR1人ひとりのiPadは研究・臨床開発部門と直結しているだけでなく、「蓄積する膨大な治療データから類似症例を検索して、医師の治療方針決定の参考にしてもらえるシステムの構築を目指す。将来は、遺伝子 解析や症例等のデータと、応用数学や統計学などを組み合わせるバイオインフォマティクス(生物情報科学)を活用したシステムへ発展させ、その分析を基にし て、MRが医師と対等な相談相手の関係を築く可能性も見据えている。」(東洋経済オンライン「経済ニュースの新基準」より)
もともと製薬業界は大量のデータを扱うことの多い業界。ビッグデータの考え方と相性が良いと言われており、今後も活用の積極化が予想されます。果たして各企業のビッグデータ解析が、このパテントクリフ後の製薬業界に何をもたらすのか。ぜひ業界の動向に注目したいですね。
(文・須藤 利香子)