5月19日のプレスリリースで、武田薬品工業がスイスのナイコメッドを買収することが正式に発表されました。
通常、企業が買収を行う場合の目的は3通りあります。
1.パイプラインの増強。
2.販売網の拡大
3.事業の多角化
今回の買収に関して言えば、武田が「本買収は、「11-13中期計画」における、持続的成長の実現に向けた当社の基本戦略を大きく前進させるものです。本買収によって、当社が高いプレゼンス を有する日本および米国の事業に、Nycomed社が広く自社販路を有する欧州および高い成長を続ける新興国の事業基盤が加わり、当社の開発力・販売力が 強化され、当社の製品・パイプラインのポテンシャルが一段と高まることになります。」と語るように、2の販売網の拡大。
ナイコメッドはヨーロッパ諸国に加え、ロシアやブラジル、中国、トルコといった新興国での拠点作りに力を入れてきた企業。武田にとっては、かねてから体制作りが遅れていた新興国への販路拡大に、いよいよ本腰を入れた格好となります。
今回、買収額は1兆1100億円と言われています。これは、2008年に武田がミレニアム・ファーマシューティカルズを買収した際の8998億円を超える額。巨額の買収資金を、武田は銀行からおよそ6000億円の融資を受けることで調達するため、ムーディーズやS&Pなどの格付け会社は、今回の買収を機に武田を格下げ方向で見直すと発表しています。
とはいえ、世界16位だった武田の売上は、今回の買収で12位に浮上。買収発表直後の株式市場の反応も、概ね好意的なようでした。武田自体は、今回の買収により、2013年度に売上高1兆6800億円へ引き上げ、2015年に向けた業績のV字回復の第一歩に繋げると意気込んでいます。
2010年問題による主力製品の特許切れが響き、減収減益となった武田が、強気の見通しを立てるには、もうひとつ、今回の合併がもたらす恩恵がありました。
それは、今回の買収で、ナイコメッドの新薬「ダクサス」を得、これまで苦手としてきた呼吸器分野のラインナップを補強することにも繋がるということ。
今回の買収について、武田の長谷川社長は「かねて申しているがベストテンに入りたいなどと考えていない。(中略)今回の買収で当社が弱点であった部分が相当補強される」(時事ドットコムより)とコメント。
あくまで、弱点視されてきた新興国と呼吸器系を補う買収だったということですが、2008年から続く買収路線を見る限り、着々とメガファーマを照準に入れた生き残りを画策しているという見方も、できるのではないでしょうか。
ゼネラルとして全領域の薬を手がけられること、そして数字が給与に大きく反映されることで、かねてから実力主義のMR(医薬情報担当者)に人気だった武田薬品工業。今回の買収でまた1つ醍醐味が増したと言えそうです。
(文・須藤 利香子)