根本的な治療法がないことで知られるアルツハイマー型認知症。進行抑制剤として市場の7~8割を独占したアリセプトは、ご存じの通りエーザイによって生み出されました。
これまで世界に後れを取りがちとされてきた日本企業の中から、こうした画期的な薬が誕生したのは、逆に言えばそれだけ高齢化が進む日本にとって、アルツハイマー型認知症は無視できない存在だからかもしれません。
長い間トップシェアを走り続けてきたエーザイのアリセプトが特許切れとなったのは、MR(医薬情報担当者)のみなさんにとっても記憶に新しい出来事だと思います。アリセプトが長きにわたってシェアを独占し続けてこられたのは、これまで認知機能の一時的な改善と、症状の進行を抑制する同薬を超える効能を持つものが開発されなかったことに起因します。
もちろんこれまでも、アルツハイマー型認知症の根治薬の開発は、世界・日本国内でともに進められてきました。ですが、2011年、各社がアリセプトから実に12年ぶりにリリースしたアルツハイマー型認知症薬も、アリセプト同様、症状を一時的に緩和したり、抑制する対処療法薬でした。
同じ進行抑制剤というカテゴリーの中、いかに付加価値のある薬を提供するか。ここ数年の各社の動きは、そのようにも受け取れます。ヤンセンファーマはレミニールで副作用の低減を実現し、ノバルティスファーマはイクセロンパッチで「貼るアルツハイマー薬」というスタイルを提唱して見せました。最近では、第一三共のメマリーが、アリセプトやレミニールと併用することでより大きな効果を期待できるとされ、脚光を浴びています。
ですが、そのような中、ついに根治薬の開発成功を示唆する報道がされました。ファイザーが、今月にも新しい臨床研究成果を学会で発表すると見込まれているとのことです。7/3付けのSankei Bizより引用します。
「開発中の治療法は、変異タンパクを抗体を使って生成しにくくしたり、分解する仕組みとみられ、すでに臨床試験の最終段階にあるとされる。抗体以外の薬品や手法の研究も進むが、「発表内容によっては新薬開発の潮流も抗体に大きく傾く」こともありそうだ」
アルツハイマー型認知症のトリガーは、脳内に変異タンパクがたまることで、神経細胞が壊死してしまうこと。記憶力の低下や判断力の低下といった症状を招くのを、アリセプトやメマリーでは神経活動を活性化させることで対処するものでした。これが、報道の通り、変異タンパクの生成そのものを食い止めることができれば、症状の悪化を防ぐことはもちろん、根本的な治療方法にもじゅうぶんなり得ますね。
ファイザーの学会発表は7月中旬を予定されているそうです。12年以上の硬直状態を破る、画期的な研究結果となりうるのか。もしそうであれば、業界地図がまた大きく代わることになり、注目したいところですね。
(文・栗山 鈴奈)