こんにちは。今日は、ちょっと前に気になった製薬メーカーのCMについてお話したいと思います。
それは、塩野義製薬が打ち出している動脈硬化のCM。電車の中、セリフも何もなく、「ヘイヤレーラタティーヤ…」という独特の歌声に乗せて、動脈硬化で人が倒れていくその映像は、初めて目にしたときから「うわぁ、怖いな…」と思っていました。
そうしたら、同じように思っている人が多かったみたいで。9月の終わり頃から“怖いCM”として話題になり、動画サイトやインターネットだけでなく、テレビ番組などでも紹介されていたんですね。「怖すぎる」と問い合わせが殺到するほどだったと言いますから、動脈硬化という疾病の危険性を広く知ってもらう、という点ではかなりの成功だったのではないでしょうか。
但し、塩野義製薬の社名が出るのは、CMの終わりのほんの一瞬(1~2秒『塩野義製薬』と出る)だけ。これではせっかくのCMなのに、名前を覚えてもらえるか、疑問です。なんだか不思議じゃないですか、このCM。
ふつう、製薬メーカーのCMといえば、ファイザーのEXILEの歌を採用したCMや、第一三共の渡哲也さんを起用したCMのように、企業姿勢や実績をアピールするイメージ戦略的な打ち出しのものが多かったですよね。
そんな中、どうして塩野義は、莫大な予算を掛けて、一瞬しか社名が写らないようなCMを打ったのでしょう? これは、単純にテレビ局がスポンサーの獲得に苦戦しているため、CMコストが下がったというだけが理由ではない気がしています。
もちろん、「病気の怖さを知ってもらおう」という社会貢献的な意味もあったとは思います。
ですが、塩野義と言えば、高脂血症治療薬として強い商品力を持つ「クレストール」を抱えています。薬事法による広告規制がある中では、こうした「特定の疾患でうちの製品に叶うものはない」という自負がある場合、その病気の恐ろしさを広く知らしめることが、実はもっとも有効的な打ち出しとなるのかもしれません。その病気で病院を訪れた人には、高い確率で自分のところの薬が処方されるわけですから。病気に気づかない潜在的な患者をCMによって掘り起こせば、自動的に売上は伸びていくことになります。
もしそこまで本当に考えられていたとしたら、すごいCMですよね。
いずれにしても、塩野義以外にも、特定の分野で強い商品を持つメーカーはありますから、今後はこうした商品力を活かしたCMクリエイティブで、間接的に自社製品の利用拡大を狙う動きが活発になるかもしれませんね。
CMのクオリティは企業の命運を分けるカギでもあります。こういう部分に注目することも、企業の将来性を見る上では、とても面白いところだと思います。
(文・栗山 鈴奈)