2012年時点で、患者数約15万人、薬価ベースでおよそ700億円と言われる国内パーキンソン病治療薬の市場。ここを巡り、製薬企業各社の明暗が分かれています。
5月末、パーキンソン病の治療薬・プレラデナントの開発を打ち切ったメルクの裏で、パーキンソン病治療薬・ノウリアスト錠を上市へとこぎ着け、一気に昇り調子となった協和発酵キリン。その1ヶ月後の7月1日には、ノバルティス・ファーマが競合となるパーキンソン病治療薬「ELC200」の国内承認申請を行い、話題となりました。
協和発酵キリンのノウリアスト錠は、既存のドーパミン受容体作動薬が持つウェアリングオフ現象(使用し続けることで効能が低下する)問題を改善するものとして、市場の高評価を受けました。一方、ノバルティス・ファーマのELC200は、同じくウェアリングオフ現象の改善を目的とした薬。こちらは「Stalevo」という名前で、既に90カ国で承認されている実績があります。
そんなノバルティスの発表に沸いた市場がさめやらぬ、7月16日。Yahoo!のトップページにも取り上げられていた「パーキンソン病治療に光」という記事、ご覧になりましたか?
人間の体内にある一酸化窒素(NO)を用い、パーキンソン病を治療するというもので、奈良県立医科大学・京都大学・三重大学からなる研究チームが発見しました。
そもそもパーキンソン病のメカニズムは、細胞に蓄積した不要物質によりドーパミンを作る神経細胞が減少してしまうことで起こりますが、一酸化窒素が細胞内の不要物質を分解するパーキンを活性化。結果として神経細胞を保護し、パーキンソン病を防ぐというもの。これまでのドーパミン受容体を刺激してパーキンソン病の症状を抑制するアプローチとは一線を画すものです。中日新聞から詳細を引用します。
「奈良県立医大の小沢健太郎准教授らは、ヒトの神経細胞から培養した細胞にNOを加えると、細胞内にある特定の不要物質の分解が、加えない場合の約二倍促進されることを解明。パーキンソン病を防げる可能性があることを明らかにした。
一方、NOを長時間加え続けるとパーキンの働きが低下。これはNOが別の物質に変化し、パーキンを働かなくするためだと分かった。(中日新聞2013年7月16日 朝刊)
上記の記事は、「NOの細胞保護の作用だけを利用できる薬剤を作れれば、多くの患者の症状を緩和できる可能性がある」という奈良県立医科大学・小沢准教授の言葉で締めくくられていますが、今回の画期的な発見は、また1つ、国内のパーキンソン病治療薬の市場を大きく塗り替えることになりそうです。
(文・須藤 利香子)