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中外製薬が勝訴。後発薬メーカーの特許侵害はなぜ起きてしまったのか

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[ 2016年03月31日(木) ]

中外製薬が勝訴。後発薬メーカーの特許侵害はなぜ起きてしまったのか3月25日。中外製薬が自社製品『オキサロール軟こう(乾癬治療薬)』の特許を侵害しているとして、後発品メーカー4社に対して販売差し止めを要求した裁判が行われ、中外製薬の訴えが認められました。

一審の東京地裁に続き、二審の知的高裁でも中外製薬の勝訴。なぜ、特許が切れた薬を作っているはずの後発メーカーが特許侵害の判決を受けることになったのか。今回はこの点についてお話ししたいと思います。

新薬は特許で守られている、とひとえに言いますが、医薬品の特許には大きくわけて次の4種類が存在します。

1.物質特許
医薬品に使用する物質に関する特許。創薬研究段階で出願される。

2.用途特許
医薬品の効能や効果の有効性に関する特許。非臨床試験段階で出願される。

3.製剤特許
錠剤やカプセル剤など剤型に関する特許。臨床試験段階で出願される。

4.製法特許
医薬品の製造方法に与えられる特許。承認審査時に出願される。

ジェネリック医薬品は、この中でも薬の命となる「物質特許」と「用途特許」が切れたタイミングで参入することになります。ところが、ここに今回の判例のような落とし穴が存在します。

通常、特許権の存続期間は出願から20年。真っ先に切れるのは創薬研究時に出願された物質特許と用途特許ですが、今回争点になっている製法特許や製剤特許は、その後の開発・審査に何年もかかることを考慮すると、物質特許が切れた後も数年間は効力を発揮し続けることになります。

ジェネリック医薬品がよく「先発薬と同じ成分だが効き方が異なる可能性がある」と言われるように、同じ成分でありながらも製法や剤型が異なるのはこのため。残存する製法特許と製剤特許をかわすために、迂回発明などといって、先発薬と異なる製造方法を編み出すのが通例です。

ですが、「先発薬と何でも少し変えればOK」という状態になってしまっては、特許で守られているとは言えません。そのため、迂回発明にも適用されるルール(判例)があります。

経済産業省のQ&Aページ「特許権の均等論」では、「我が社の持つ特許権の技術とほとんど同じ技術を用いて、我が社製品の模倣品がA社により製造されています」という相談に対し、次のように解説しています。

  1. あなたの会社が有する特許技術の構成のうち、ご質問にあるA社模倣品で使用されている技術と異なっている部分が、当該特許技術の本質部分でないこと
  2. 上記の異なった部分を、A社模倣品で採用されている構成と置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の効果作用を奏するものであること
  3. 上記のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」と言います。)が、A社模倣品の製造時の時点において容易に想到することができたものであること
  4. A社模倣品に使われている技術が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一または当業者が容易に推考できたものでないこと
  5. A社模倣品に使われている技術が、特許発明の特許出願手続きにおいて特許請求の範囲から意識的に除外されたものにあたるなどの特段の事情もないこと

(中略)上記5つの基準のすべてを満たす場合には、A社模倣品に使用されている技術は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、あなたの会社の特許技術の技術的範囲に含まれるものと言うことができます。

引用元:経済産業省Q4.特許権の均等論

とはいえ、この5要件を満たし、販売差し止めとなった案件は少なく、製薬業界では今回が初めてのこと。それだけに、今回の判決はジェネリック医薬品と製法特許に切り込む画期的な判決だったと言えるでしょう。

かつて、上記の判例(5つの要件)が実在の裁判の判決から生まれたように、今回の判決も判例として今後の類似訴訟に影響を及ぼす可能性があります。政府が進める後発薬の普及策には賛否両論ありますが、今回の判決はそうした動きにくさびを打つことになるのか…今後に注目が集まります。

 

(文・須藤利香子)

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