去る8月21日、俳優のマイケル・J・フォックスが、自身と同じパーキンソン病の患者役で連続テレビドラマに出演する、というニュースがありました。マイケル・J・フォックスといえば、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が有名ですが、1991年にパーキンソン病を発症し、その後、2000年頃からメディアへの露出を控えていました。今回のドラマでは主演を務めるそうですから、本当に久しぶりの本格復帰となりそうです。
実はこの日、奇しくもパーキンソン病に関する2つの発見がニュースサイトを駆け巡っていました。
1つは東北大学による発見で、パーキンソン病に、抗うつ剤の「セルトラリン」が有効というもの。パーキンソン病を解き明かす鍵は、αシヌクイレン(αSYN)というタンパク質凝集物が蓄積したり、神経細胞に取り込まれることと言われています。今回の発表は、セルトラリンに含まれるダイナミン阻害作用を活用し、細胞内への物質取り込みを阻止、同病とその類縁疾患の病変拡大を抑制する、というものです。あくまで症状の進行を遅らせるものではありますが、アンメット・メディカル・ニーズを満たすかけがえのない発見と言えそうです。
そしてもう1つのニュースは、東京都医学総合研究所と徳島大学らの研究チームが、ついに若年性パーキンソン病の仕組みを解明した、というものです。8月21日、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズで発表されました。
この内容は、要約すれば、細胞内に異常なミトコンドリアが発生した際にそれが除去されず、神経細胞が壊死していく、ということですが、正確性を期すため、時事通信社の記事よりそのときの記事を引用します。
「研究チームは、たんぱく質『PINK1』をつくる遺伝子に変異がある若年性パーキンソン病の患者を調査した。ミトコンドリアに異常が起きると、PINK1にリン酸が付加され、異常なミトコンドリアを分解する役割を持つ別のたんぱく質に信号が送られることを突き止めた。しかし、患者では付加が起きないため、異常なミトコンドリアが分解されずにたまり、神経細胞が死んで発症に至る」
パーキンソン病の治療は、今もなお満足のいく治療法が見つからず、アンメット・メディカル・ニーズに数えられる疾病の1つ。東北大は3月に、嗅覚検査でパーキンソン病における認知症発症を予測できることを突き止め、今年2月には、京都大学がヒトのES細胞からドーパミン神経細胞を移植することでパーキンソン病のサルを改善させることに成功するなど、着実にそのメカニズムの解明が進んでいる印象があります。
アポカインR皮下注30mg、レキップRCR錠など…、パーキンソン病の治療薬は続々と開発され、日本でも多くの種類を取りそろえるようになりました。ですが、病状の進行を止める、または根本的な治療を目的としたような薬はまだこれから。現在も多くのパーキンソン薬が治験段階にありますが、今回のような発見が相次ぐのは、この業界の将来を見る上でもとても心強いですね。
(文・栗山 鈴奈)