8月23日の『ナショナルジオグラフィック』に掲載されたニュースをご覧になりましたか?
副作用なく11種の哺乳類の15種類のウィルスを探し出して破壊する新しい薬が、マサチューセッツ工科大学(MIT)リンカーン研究所/比較医学部門の学者トッド・ライダーらによって開発されたというのです。それも、その15種類の中には、あのHIVやエボラウィルス、天然痘、H1N1型の豚インフルエンザウィルスなど、従来の医療では根治が難しかったタイプも含まれているということ。
これまで開発されてきた抗ウィルス薬は、大抵が1種類のタイプのみを標的にするもので、ウィルスが変異すればたやすく耐性を持たれてしまうデメリットがありました。しかし、この薬は…
「DRACOと名付けられた新薬は、体内で長い二本鎖RNAを含む細胞、つまり確実にウイルスに感染している細胞を探す。そして、感染した細胞を見つけたら、その細胞に自己破壊命令を出す。人間の体が自分からこの2種類のタンパク質を組み合わせることはないため、最も適応性の高いウイルスでも、薬として組み合わされたこのタンパク質の裏をかくことはできないだろう」(『ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト』より)
つまり、人体に自然と備わっているRNAを探知できる性質と、細胞のアポトーシス機能を人為的に合わせたことで、ウィルスに耐性を持たれることなく確実に叩くことができるというもの。実験では、致死量のH1N1型ウィルスに冒されたマウスが100%治癒したといいます。
『風邪の特効薬が開発されたらノーベル賞』と言われる中、風邪だけでなくHIVやエボラウィルス、デング出血熱、天然痘、そして先のH1N1型の豚インフルエンザウィルスなど15種類のウィルスに効果を発揮するこの新薬は、そのまま実用化されれば文句なしに歴史に残る大偉業となるでしょう。
今後はより大型の動物で安全性・効能の実験を行い、アメリカ食品医薬品局の承認され次第、人体での臨床試験へと入っていく予定とのことですが、「薬局でこの薬を買えるようになるまでには、少なくとも10年はかかる」といいます。
向こう十年でどれほど医療が発展するのかは未知数ですが、現在の市場にこの薬が登場したら、多大なインパクトを生むことは間違い有りません。まさにこれからのブロックバスターとなる可能性を秘めているだけに、今後、DRACOの製造・販売権利をどの製薬会社が獲得していくのか、行方が気になるところです。
(文・須藤 利香子)