前回の未来図MRでもお伝えしたファイザーによるアストラゼネカ買収劇。その後、5月19日にアストラゼネカはファイザーの買収提案を拒否したことが報じられました。
最終的な提案額は、総額約700億ポンド=約12兆円。当初の588億ポンドから実に100億ポンド以上の額でしたが、「企業価値を過小評価している」としてきたアストラゼネカ経営陣が首を縦に振ることはありませんでした。
その後、27日の朝日新聞デジタルが報じたのが下記。
米製薬大手ファイザーは26日、英アストラゼネカに対する総額約1166億ドル(約11兆9千億円)の買収提案を撤回する、と発表した。買収が実現 すれば、売上高で世界最大の製薬会社が誕生するはずだったが、アストラゼネカ側が交渉に応じなかったため、ファイザーが断念した。
ゴールデンウイーク前の4月28日に買収を提案して以来、ちょうど1ヶ月。業界最大規模のM&Aの買収劇に、正式に幕が下ろされたのでした。
2000年のワーナー・ランバート社、 2003年のファルマシア、2010年のワイス…など。前回もお話しした通り、ファイザーは経済界に「ファイザーモデル」という言葉を生んだほど、M&Aを繰り返して企業を成長させる手法に長けてきました。
今回のアストラゼネカ買収撤回で、ファイザーの手腕が鈍ったと見るのはまだ早計かもしれません。ですが、先日の第1四半期決算の内容や、抗がん剤の決定打に乏しいパイプラインを踏まえると、アストラゼネカを得られなかったのは痛手には変わりないでしょう。
2014年4月22日のウォールストリートジャーナルでは、アストラゼネカの魅力について、こう語られています。
アストラゼネカの魅力は、開発の初期の段階(第1相臨床試験)にある抗がん剤の新薬候補(パイプライン)だ。(中略)アストラゼネカを買収することでファイザーはリウマチ治療薬やワクチン製品を拡充できるほか、心血管系疾患の治療薬などの領域で営業部員の削減によりコストの相乗効果が望める。
多くのチャンスを逃したかに見える、今回の買収撤回。しかし、ウォールストリートジャーナルには、意外にも下記のような分析もありました。
ISIのアナリスト、マーク・ショーネンバーム氏による機関投資家を対象とした調査で、回答者の52%がファイザーの立場から、この買収は理にかなっていないとの見方を示した。
巨人・ファイザーにとっての、よりベストな選択とは何か。買収がなくなったとしても、同社には、自社で進めるパイプラインやエスタブリッシュ医薬品事業など…既に多くの武器があることに代わりはありません。それらを駆使し、次にどのような手に出るのか…注目していたところです。
(文・栗山 鈴奈)