2013年10月に、当コラムでも取り上げた日本版NIH構想。アメリカの合衆国保健福祉省公衆衛生局下の医学研究の拠点機関であるアメリカ国立衛生研究所(アメリカこくりつえいせいけんきゅうじょ、National Institutes of Health)に倣う、日本の医学研究の拠点を来年4月に成立させるにあたって、その関連法案が、いよいよ審議入りしました。
文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省がバラバラに行っていた研究開発事業を一元化し、薬や治療法の実用化をよりスムーズにすることで、2.4兆円と言われる医薬品の貿易赤字を解消することが狙いとされています。
日刊薬業4月1日(第13924)号によると、
『独法設置の準備期間の関係から、政府は5月の大型連休前後の法案成立を期待している。法案成立後は理事長予定者の人事が焦点になりそうだ』
とのこと。今後1~2ヶ月の動きに注目ですね。
以前コラムでもお伝えした通り、製薬業界には追い風となるニュースのはずですが、審議入りを控えたあたりから、何かと懸念の声も聞かれ始めました。
西日本新聞2014年3月3日号では、
『最新の薬や治療法が今より早く実用化されるかもしれない』と一定の評価をしつつも、『現時点で過大な期待をするのは控えたい。各省庁の強い抵抗もあって、組織の陣容が当初の構想から大きく後退したからだ』と警鐘を鳴らしています。
その理由は、日本版NIHの規模感。年間予算1200億円、職員約300人での発足予定というこの数字は、年間3兆円・職員数約2万人(うち科学者は6,000人程度)の本場アメリカNIHと比較して、少ないと認めざるを得ない数字です。
加えて、研究開発事業の一元化が狙いであるにもかかわらず、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省による予算要求という縦割り構造は変わらないことも、波紋を呼ぶ要因となっています。
また、研究者からは「実用化を優先したトップダウン型の組織構造が基礎研究の多様化を阻害するのではないか」、「日本版NIHそれ自身の登場により、経済的な成果を急かされ、安全性・データの正確性が損なわれるのでは」といった懸念の声も。
その後、諸般のニュースを受けてかデータの改ざんなどの研究不正を防ぐ専門部署が日本版NIH内に置かれると発表がありましたが、果たしてこれから始まる国会審議では、どれほどの理解を得られるのでしょうか。
本場アメリカのNIHは今年で誕生127年。歴史・規模ともに異なるからこそ、日本版NIHは真に現代日本にフィットする機構へと独自進化を遂げて、業界をリードしてくれることを期待したいですね。
(文・須藤 利香子)