去る6月26日、iPS細胞に関する大きなニュースが駆け巡りました。ご覧になりましたか?
厚生労働省の審査委員会は26日、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使って目の網膜を再生する臨床研究を承認した。がん化の可能性を減らすなどの条件を付けたが、国での審査は実質的に終了した。(共同通信)
iPS細胞を用いた臨床研究が承認されたのは、これが世界初。今回、承認を受けたのは、高齢者に多い目の病気である滲出型加齢黄斑変性を対象とした、再生医療の臨床研究の実施研究について。同疾患患者の中から、既存の薬が効かなかった6名を選出し、患者自身の細胞から移植用の細胞を作成し、行われるそうです。
iPS細胞といえば、その可能性とともに懸念されるのが、がん化リスク。今回の治験では、治療の効果・効能よりも、そうした副作用・安全性に焦点が当てられるようです。
滲出型加齢黄斑変性は、近年承認された「抗VEGF薬」が有効とされていましたが、効かないケースが2~3割存在するとされています。今回の研究が良い結果をもたらせば、iPS細胞によるアプローチが、抗VEGF薬よりも多くの人々を救う可能性に繋がるとあって、患者さんたちからは、「治療の可能性が広がる」「夢の技術」と期待の声が多く上がっています。
製薬業界の人間からすれば、どこか、新薬の役目を奪われてしまうような印象ですが、人間の細胞を複製するiPS細胞を使う再生医療には、生命と倫理の問題や先ほどのがん化リスクの問題など、これから越えていかなければならない壁が多数存在しています。
むしろ、人間の細胞と同じ環境を再現できるiPS細胞の特性は、創薬や新薬の安全性調査など…製薬企業にとっても有効な技術。今回のニュースの裏でも、製薬企業と京都大学で、難病患者のiPS細胞を使った新薬研究の計画も進められており、今後の新薬研究に大きな恩恵をもたらすものと考えられています。
いよいよ実用化に向けて動き出した感のあるiPS細胞の技術。製薬企業として、いかにiPS細胞と上手な付き合い方をしていくか…それは今後の各社のパイプラインを語る上で、無視できない要素かもしれません。
(文・栗山 鈴奈)