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「打開策なし」のアルツハイマー業界に差した新たなる希望の光

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[ 2013年03月07日(木) ]

昨年、アルツハイマー根治薬の開発を進めているという記事を書きました。その後、残念ながらファイザーがジョンソン&ジョンソンと共同開発していたアルツハイマー治療薬『バピヌズマブ』は、治験失敗で開発中止という道を辿ることになりました。

期待の目は同時期に開発が進められていたイーライ・リリーの『ソラネツマブ』に注がれることとなりましたが、こちらも8月の大規模試験に失敗。どちらもアミロイド仮説(※アルツハイマー型認知症患者には、脳内にアミロイドベータと呼ばれるタンパク質が蓄積することがわかっており、これが発病の原因ではないかとする説)に基づく、ヒト化モノクローナル抗体でした。

アミロイド仮説は、これまでアルツハイマーの原因として最も多くの研究者によって唱えられてきたもの。しかし、この仮説をベースにした薬剤は、過去にも『フェンセリン』『フルリザン(タレンフルビル)』や『セマガセスタット』など複数あったものの、ことごとく失敗・開発中止の結果に終わっています。昨年、最後の希望とも言える『バピヌズマブ』『ソラネツマブ』が立て続けに失敗したのを受け、「アミロイド仮説自体が間違っているのでは…」という落胆も広がりつつありました。

ところが、今年の2月末、つい先日のことですが、アルツハイマー研究界に1つ希望の光が現れました。京都大学 iPS細胞研究所(CiRA)をはじめとする研究チームがiPS細胞を用いた実験により、アルツハイマー病のメカニズムを解明した、というのです。

解析の結果、APP-E693Δと呼ばれる変異があると、アミロイドベータ(Aβ)というタンパク質がオリゴマーと呼ばれる凝集体となって細胞内に蓄積し、小胞体ストレスと酸化ストレスを 引き起こし、細胞死を生じ易くすることが分かりました。(平成25年2月22日、京都大学 iPS細胞研究所(CiRA)・長崎大学・科学技術振興機構(JST)の共同発表『患者さん由来iPS細胞でアルツハイマー病の病態を解明 iPS細胞技術を用いた先制医療開発へ道筋』より)

この結果により、やはりアルツハイマー病の原因はアミロイドにあることが判明。さらに同研究では、ドコサヘキサエン酸(DHA)がこれらのストレスを軽減することも解明され長年停滞していたアルツハイマー研究に、大きな希望の光が差しました。

日本国内では現時点で200万人を越えるアルツハイマー患者がいます。アメリカ神経学会誌Neurologyによると、米国では、アルツハイマー患者数が40年後には3倍になると予測されています。オバマ政権も今後10年間で人間の脳機能の全容解明を目指す民間共同プロジェクトの計画を発表するなど、世界的に注目が集まるアルツハイマー治療薬。iPS細胞は、あっという間にアルツハイマー研究の止まっていた時計を動かしてしまった感がありますが、日本の研究チームが切り拓いた未来に、製薬企業各社がどう追随していくのか…アルツハイマー研究から目が離せません。

(文・須藤 利香子)

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